
ムランの二連祭壇画

「ムランの二連祭壇画」はシャルル7世の財務長官エティエンヌ・シュヴァリエの注文で制作され、シュヴァリエの生地ムラン、ノートル・ダム参事会聖堂に奉献された作品とされる。18世紀までは二連祭壇画としてムランに置かれていたが、現在はアントウェルペンとベルリンに分けられている。17世紀の記録によると、額縁は青いビロード張りで、エマーユのメダルが置かれていた。
シュヴァリエは同名の守護聖人、聖ステパノ(フランス語ではエティエンヌ)によって聖母子に紹介されている。ステパノは助祭の服を着て右手をシュヴァリエの肩に置き、左手には書物の上に殉教の責め具の石を乗せている。
室内空間は遠近法を用いて描かれているが人物との関係は完璧ではない。寄進者像は全身か胸像で描かれることが多かったが、ここでは腰までの半身像が採られている。
世界美術大全集10 ゴシック2 1450年代

裏面に1775年の年記がある銘文があって、すでに祭壇画は分けられ聖堂から持ち出されていた。そこにはシュヴァリエが遺言執行人の一人に指名されていたアニエス・ソレル(シャルル7世の愛妾で1450年没)の冥福を祈って奉献したと記されている。
17世紀から聖母がアニエスの似顔という伝説があったが、男性像の個性的表現と比べてゴシック的女性像といえる。
玉座の背板には大理石の飾り板が用いられ、玉飾りには窓からの光も反映されている。背景はケルピムとセラピムの赤と青の天使像で埋められ、左翼の室内表現と異なり神秘的幻想的になっている。
聖母の腰から下の表現は曖昧、聖母が右を向いていることから、シュヴァリエの妻を描いた右翼があったとする説もある。
フーケ 1450年代初頭 板
左翼 エティエンヌ・シュヴァリエと聖ステパノ
96×88cm ベルリン 国立絵画館
右翼 聖母子と天使たち
95×86cm アントウェルペン 王立美術館